がちゃり。

北海のシュヴァングル諸島にはこんな諺があります。
『大狼に触れるなら雪のような手つきで、しかし瞳の篝火は絶やさずに』
一年のほとんどを氷と薄暮の世界で過ごすこの島の人々にとって、狼は掛け替えのない存在です。ともにアザラシを狩る相棒であり、半ば家畜化されているのでいざというときの貴重な食糧でもありますが、もちろん野生の狼は容赦なく人を襲います。
この諺は、例えば島に異邦人が訪れたとき、または赤ん坊が生まれたり誰かがこの世から旅立ってしまうときにも、まるで祈りのように、耳を澄まさないと聞こえないような声で囁き合われます。外界と接する際の掟であり、自分と異なる者への哲学なのです。
凍てつく大地で生きる彼らにとって、他者とは常に警戒すべき脅威で、同時に得難い温もりをもたらす存在でもあるのでしょう。ここには恐れと敬意が、厳しさと慈しみが同居しています。しかしこれは決して辺境の地に生きる者だけの言葉とは思えません。
理外の理を解ろうとするとき、感性の外側を感じ取ろうとするとき、この言葉がしるべとなって寄る辺なき大海に響くさながら福音の調べ、唯一の術はむべなるかな理の断りを述べるグラフィックノベル、蔓延るバベルの駄弁る声をぶった切るアクション、アテンション、この話はイリュージョン、だって諺もイミテーション、シュヴァングル諸島なんて存在からしてフィクション。

